認知症による物忘れが年齢相応の物忘れと違う点は記憶の内容が固まりとして抜けてしまうことです。例えば、一週間前に親族の結婚披露宴に出席したこと自体を全く忘れる(通常は隣に席にいた人の名前が思い出せないなどはよくあることですが)といったことがあれば、以下の項目についてチェックされることをお薦めします。
当院では、ご本人と、ご家族から物忘れの具体的なエピソードを詳しくお聞きします。その後、質問にお答えいただく神経心理学テスト(長谷川式簡易知能評価スケールテスト、ミニメンタルテスト、動物想起テストなど) また、時計(10時10分)を書いていただく、手真似をしていただくテストもさせていただきます。神経検査では歩行状態、またパーキンソン様兆候の有無もチェックします。
また、MRIで脳腫瘍、隠れ脳梗塞、白質病変などの器質的障害があるかどうかをチェックします。短期記憶をつかさどる海馬の委縮の程度も把握します。
以上の所見より認知症かどうか、そうならどのタイプの認知症かを鑑別します。タイプとして「アルツハイマ-型」、「レビー小体型」、「前頭側頭型」「血管性」などがあります。時には鑑別診断が難しいこともあります。正確に診断して、治療方針を決めるために、脳血流検査(SPECT)またはドーパミントランスポーター(DAT)-SPECTが鑑別診断に大いに役立つことがあり、必要と判断した場合には中村記念病院でその検査を受けていただくことをお薦めしております。必要な手続き、予約などはすべて当院でいたします。
これらにより早期に的確に診断がなされれば、その進行を遅らせる薬を服用したり、周囲の理解などにより、自立した社会生活を長らえることができます。
一方、脳腫瘍、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫などは同様の認知障害をきたすことがありますが、脳神経外科的な治療で劇的に回復いたします。ご自身またはその家族の方で気になる症状がありましたら、ためらわずに受診されることをお薦めします。
次に認知障害をきたす各々の疾患につきお話しします。
アルツハイマー型認知症とは、脳の神経細胞の外にアミロイドベータという異常な物質がたまり、その後、神経細胞内にタウタンパクが蓄積して、ゆっくりと神経細胞が破壊されてゆく病気です。海馬という新しいことを覚える働きのあるところから病気が始まるため、少し前のことを覚えていない、同じことを何度も言うなどの症状が出ますが、昔の記憶は温存されています。進行すると物忘れだけではなく、日時、場所がわからなくなる見当識障害、遂行障害のために日常生活が難しくなるため、日常生活での介助が必要になります。
レビー小体型認知症の方の脳にはレビー小体(αシヌクレインが主成分)と言われるものが脳細胞の中にたくさんに見られることから、この名前がつけられました。もの忘れから始まるアルツハイマー型認知症に対し、レビー小体型認知症では、初期にはもの忘れは比較的軽いことが多く、それ以外の症状で始まることが多くみられます。
2と3は最初のチェック項目の9に相当する症状です。その他にも、寝ている時に大きな声を出したり、壁を蹴ったりする症状が物忘れ以前よりでることがあります。これは睡眠中の筋緊張の抑制が障害されるため夢の中の行動がそのまま出てしまうためです。
また注意すべきは抗精神薬(興奮などを抑えるための薬)に過剰に反応するため、服用後に動けなくなるなど悪化することがありますので注意が必要です。
以上のような多彩な症状がすべてそろうというより、人により幻視の強いタイプ、パーキンソン症状の強いタイプなど様々です。
脳梗塞、脳出血により、様々な部位の脳が障害を受け、認知機能の低下をきたし、再発を繰り返すことにより進行します。障害部位により症状は異なります。また、動脈硬化の進行(主に、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、たばこの喫煙などが主な原因となります)により白質病変が進行しても認知障害をきたします。
また、血管性がアルツハイマー型認知症と混合することにより、発症がより早くなります。この観点からは認知症は生活習慣病の要素を多分に持つということがわかります。イギリスで減塩キャンペーンにより高血圧症の患者が減った結果、認知症の有病率が減少したという報告があります。
初期には物忘れは軽度ですが、人格変化が中心で、自己中心的となり、社会的規範から逸脱する行動をとる方もいます。例えば、施設に入居している人が、他人の部屋に入り自分の好きなものを勝手に持ってくる、コンビニでレジを通さず品物を持ち出すなどがあります。MRIでは前頭葉、側頭葉の萎縮を認めます。脳血流検査(SPECT)でも同部位に低下を認めます。言語中枢のある側頭葉(主に左側)が障害されるために会話に支障をきたす方もいます。